本 / きょうの塩梅 -Easygoing Umeshigoto-

 

 

 



「きょうの塩梅 -Easygoing Umeshigoto-」

著者 中山晴奈
写真 川瀬一絵
コラム 伊藤洋志
取材協力 藏光農園
デザイン 山田洋平(MAQ inc.)

発行者 中山晴奈
https://foodstudy.work/
info@foodstudy.work

判型 A5判
ページ 118頁
定価 3200円(税込)
発行日 2022年4月29日


はじめに 

私の実家には梅の木が植えてありました。

東京近郊の農家で、今は畑は宅地開発でなくなってしまいましたが、
庭先には梅の他にも農家だった頃の名残でさまざまな果樹があります。
毎年春に開かれる近所の寺のまつりは植木市を兼ねていました。
境内にずらりと並ぶ屋台のほかに、庭木や野菜の種などが並びます。
父も祖母もこの地域で生まれ育ったので、我が家には
この植木市で買った80年分の植木が庭先に植えられていました。

昔は今のようにお店で果物が手に入りませんでしたから、
いわば食べてみたいという一心で植えた、キウイ、みかん、柿、
ウスラウメ、最近ではブルーベリーなどがそろう歴代の食いしん坊の庭です。
そのなかでも毎年確実に実をつけ、家族で毎年実のなりを
楽しんでいるのが3本の梅の木です。
今年は豊作だ不作だと、毎年、梅雨頃はその話題で持ちきりです。
梅はそのままでは食べられません。

私たちが日頃手にする果物のなかでも、梅は変わった存在です。
梅干しにしたり、梅酒にしたり、砂糖に漬けたりと、加工しないと
食べられないからです。温州みかんの消費が近年落ち込んでいますが、
その理由は皮をむくのが面倒だからといわれます。
そう考えると今の時代、手を加えないと口にできない梅は
時代遅れの果物かもしれません。

だけど梅を仕込む作業を「梅しごと」とよんで楽しみにしている人が
たくさんいるのは何故なのでしょうか。
暮らしの中で手間をかけるということは、そもそも豊かさを
意味することでもあります。今年は曇りが多くて梅干しが完成するまでに
時間がかかったとか、今年はスパイスを入れてみようとか、
毎年手をかえ品をかえしていると、梅仕事はまるで人生を測る
ライフログのようです。

梅が面白いのはその加工品のほとんどが保存性に優れているということです。
3年前の梅干し、5年ものの梅酒が家に眠っている人も多いでしょう。
子どもがいる家では、その瓶を見るたびにその年漬けた時の出来事を
思い出すきっかけになり、今はずいぶんあの頃より落ち着いたなぁなどと
家族の会話にもつながります。その風景の、なんと豊かなことか。

わたしたちは日々忙しく、20分でご飯をつくり、ときには食事もせずに
出かけていくこともたくさんあります。
それでも、春から初夏にかけてほんの2〜3週間だけ訪れる梅の季節を
楽しむことで、お天気に泣き笑いし、初夏の訪れを祝い、
文化を味わうという、人生の豊かさを享受できるのです。

1年のなかで梅の仕込みが楽しめるのは約3週間程度ですが、
この特別な時間を感じていただけるような本です。
また次の年に空いた瓶に仕込みができるよう、瓶の中身を消費するための
レシピもつけました。
毎年梅雨の時期にこの本でお会いできるとうれしいです。




著者 プロフィール

料理 / 中山晴奈

千葉県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現修了。
食を切り口に文化や社会を探る作品づくりや、地域文化や農林水産品を
新しくとらえるレシピづくりなど、コミュニケーションデザインを行う。
東北食べる通信は立ち上げから2021年まで約10年にわたりかかわる。
フューチャースケープ展(2022年、象の鼻テラス)、フードスケープ展
(2016年、アーツ前橋)等にも参加。


写真 / 川瀬一絵

写真家。1981年島根県出雲市生まれ、横浜市在住。
気に留まる些細な物事を採集する手段としてカメラを使う。
主な個展に「空の耳」(2009年、dragged out audio)、
「北風と太陽」(2016年、gallery to plus)、「きみの名前」
(2020年、dragged out studio)などがある。

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